人手不足の物流業界
更生の場となれるか

　10月31日に埼玉県の蕨郵便局にて発生した立てこもり事件の犯人が元暴力団関係者という説は耳にされたことはあるだろうか。合わせて注目したいのは当人が無職だったこと。

　令和の矯正統計年報では刑務所再入所者の約7割が再犯時に無職というデータがある。立てこもり事件のような凶悪犯罪を未然に防ぐには社会から孤立した人物を社会復帰可能な環境が必要なのは明らかだ。「闇バイト」という言葉が一般化するなど犯罪が身近になり、青少年が早くから社会から逸脱してしまう可能性を秘めた現代においてなおのこと。安心して暮らせる社会を実現するためには彼らの更生を助ける環境が不可欠だ。

全国で不足する
雇用協力主と保護司

　「雇用協力主制度」というものがある。犯罪をした者等の自立及び社会復帰に協力することを目的として、犯罪をした者等を雇用し、または雇用しようとする事業主であり、令和4年版犯罪白書によれば全国で2万4665社。しかし実際に刑務所出所者等を雇用している協力雇用主数は令和3年10月時点で1208社と登録社数と比較し少ない。
　また刑務所を仮出所した人や非行少年らの更生を保護観察官と連携して支援する「保護司」も全体の約4割が70歳以上は再任不可である背景から不足が懸念されている。
　川口市議会議員の稲川和成氏は「安心して生活できる街づくりは市民の生活にとって必要不可欠な要素。社会から逸脱してしまった人達を導ける保護司と、社会復帰の場となる職場を提供する雇用協力主は、まだまだ必要とされている」とし「非行少年や出所者といえば悪意から反社会的行為に手を染めてしまったと思われがちだが、実際には巻き込まれる形で犯罪と関わってしまったり、騙されて犯罪者となってしまったケースも少なくない。社会が彼ら一人ひとりの話に耳を傾けて更生を促していくことが当人、引いては再犯を防ぎ安心して暮らせる地域社会の実現につながるのでは」と話す。

物流の雇用協力主はわずか

　同氏が社会復帰の場の重要性を訴えている一方で、雇用協力主として出所者の雇用に協力している運送業者は令和3年の法務省保護局資料によれば全体の4%と少ない。
　トランプ（埼玉県川口市）の矢作和徳代表は12月1日から保護司として委嘱を受ける。同社では非行少年に職場を提供し社会復帰を後押ししていく方針を推進していく模様。
　現在まで同社長地域住民と頻繁に交流を持ち青少年の教育、育成の相談を受けてきた。同社長は「育児に関して深い悩みを抱えている保護者は多く、その悩みも極めて深い。保護司として非行少年と密に接することは青少年の未来を守るのみならず、父母引いては地域住民に安心できる生活を提供することにつながり、川口市に会社が恩返しすることにもつながるはずだ」とし「実は自分も昔、保護司の方にお世話になったことがある。まさしく自分にとっては人生の転機とも呼べる出来事だった。長年、今度は自分が若者を救い、導ける人間になりたいと思ってきたがようやくそれが叶う。道を踏み外してしまった、踏み外す直前の青少年に新たな人生を提示し社会を支える一員として社会復帰する手助けができれば」としている。
　矢作代表を保護司に推薦した稲川氏は「矢作代表は、地域の人々から相談を受け直接関わった経験や保護者との交流からそれぞれの立場や心を理解することができる。不正を憎む当人の精神性はもちろん、会社も若手人材が集まり活気に溢れ非行少年に社会復帰を促す場として期待が持てる」とし、続けて「運輸事業は運転免許さえあればチャレンジ可能であり、社会にとってなくてはならないサービス。人手不足が課題とされている中においては、職場を提供するが会社にとって未来ある人材を獲得するチャンスにつながるのではないか。トランプのような業界で知名度がある企業とその代表が手をあげたことで、全国の関係者が再犯を防ぎ、社会復帰を後押しする雇用協力主として関心を持つきっかけとなり、社会に復帰できる人が増えれば」と話す。